私は2020年6月に宇都宮に転居しました。
コロナの最中に、一人ゴルフラウンドができるところで、文字通り、一人でラウンドをしていました。一人でラウンドすると割り増し料金にはなりましたが、肺に疾患を持つ私としては、コロナには感染したくなかったので、ひたすら孤独に、黙々と、一人でゴルフのラウンドをして、楽しんでいました。
勿論、クラブハウスには精算時のみ入り、靴の履き替え、着替えは車の中。
クラブハウスでの昼食もなし。
そんな折、やはり一人で来ていた、人生の大先輩と思しき、ご高齢の方から声をかけられました。甲高い大きな声の持ち主でした。
「一緒に回らんかね。ワシャ、コロナの心配はないから、安心してくれ。どうじゃ。」
何の根拠でコロナの心配はないのか、分かりませんでしたが、私も何の根拠もなく、この人はコロナの心配はなさそうだと思い、ご一緒にラウンドしました。
初対面にもかかわらず、お互いに昔から知っているような雰囲気で、話も弾み、何のご縁か、次回のゴルフの約束をするようになり、その後も、毎月1~2回定期的にラウンドするようになりました。宇都宮に転居後、この地で初めてできたゴルフ友達でした。
私より15歳年上、当時81歳、ご高齢で、小柄でしたが兎に角元気の一言。
2020年夏でした。
ラウンド中いろいろと話を聞くと、若くして故郷岡山から上京して、建築会社に奉公(入社)。
努力家だったのでしょう、その会社の社長夫妻から可愛がられて、若くして分離独立。
20代半ばで経営者になったそうです。独立資金は社長夫妻が、給料の一部を内緒で積み立ててくれていたそうです。独立に際して、様々なサポートもしてくれたとの事。
その後は一生懸命働いて、建築手法に関する特許を取得して、沢山の従業員を抱える会社にまで成長。そして、娘さん夫婦に経営を譲って、その後は経営には一切口を出さずに、会長職として、好き勝手に自分の人生を楽しんでいたとの事。
口癖は「ワシャ、いろんな人に助けられて、ここまでやってこられたんじゃよ。ホントにいろんな人に助けてもらってのう。ありがたいもんじゃよ。」
ゴルフの最中は、その方の若い頃の苦労話、面白経験談、人情を感じる話の数々。
還暦を既に越え、あと数年で古稀という私にとっても、改めて人生勉強になるような、心が豊かになるような、そして心に残る話の数々でした。
その方とのゴルフは、私にとっては、毎回がこれからの自分の人生にとっての応援メッセージをもらっているようでした。そして、毎回大変楽しい一日でした。
小さな体で、大きな声、甲高いだみ声で、
「ワシャ、海鮮ものは食わんけん、あんたに食べてもらおうと思って、届けに来たんじゃよ。」
「ワシャ、酒は飲まんけん。あんた飲むんじゃろう。これで一杯やってくれや」
自宅まで、戴き物のどでかい伊勢海老を届けてもらったり、これまた、戴き物の上質な日本酒、ウィスキーなどを頂いたり。
事業に成功し、何でも手に入りそうな方だったので、その方へのお返し等思いつきませんでした。お孫さんへのお菓子、従業員の方へのおやつ、ご家族への果物など、言葉を添えて、ささやかなお返しを時々させていただきました。
大したお返しは出来ませんでしたが、お孫さんへ、従業員の方へ、ご家族へ、というのが、嬉しかったのか、感激して、子供のように喜ぶ無邪気な姿を思い出します。
残念ながら、昨年秋に亡くなりました。
その方から聞いた話だけを頼りにするならば、波乱万丈、思い切り生きて、まだまだ元気な84歳でしたが、この世を去りました。
直前まで、大好きなゴルフ、自分で作った畑の仕事を楽しんでいたそうです。
世の中的には大往生というところでしょうか?
その方とは、もう二度と会えない、ゴルフ場で笑い話をしながらラウンドできない、と思うと寂しい限りですが、たった3年の付き合いなのに、私の中に何か大きなものを、大切なものを残していただいたように思います。
大先輩のそのお友達を、今短い言葉で思い出してみました。
前向きでポジティブ。
常に今生きていることに感謝する。
今起こっていることを大事にする。
出会いを大切にして感謝する、今までの自分の人生に感謝し、その恩返しを意識する生き方。
バイタリティ、負けん気、今の自分ができることの最善を尽くす気持ち。
愛嬌がある、何とも可愛らしい大先輩でした。
短い間でしたが、ありがとうございました。
本日は、これで失礼いたします。
1月8日
※ご一緒したゴルフ場、初夏の風景。元気な声が聞こえてきそうです。